蒸溜所の始まり
安積蒸溜所(Asaka Distillery)は、福島県郡山市に位置する日本の新興クラフトウイスキー蒸溜所である。運営するのは、1765年(明和2年)創業という長い歴史を誇る老舗酒類メーカー、笹の川酒造株式会社だ。同社はもともと日本酒・焼酎・ブランデーの製造で知られていたが、ウイスキー製造においても実は半世紀以上の歴史を持つ。安積蒸溜所が本格的にシングルモルトの製造を再開したのは2016年のことであり、長年眠っていたウイスキー蒸溜の情熱が再び燃え上がった瞬間であった。
郡山市は福島県の中央部に位置し、阿武隈山系と奥羽山脈に囲まれた盆地地形を持つ。この地は寒暖差が大きく、清冽な水資源にも恵まれており、良質なウイスキーを育む自然環境として非常に適している。仕込み水には地元の良質な地下水が使用され、冷涼な気候が熟成にも好影響を与えている。東北地方ならではの風土が生み出す独特のテロワールが、安積モルトの個性を形成している。
歴史・沿革
笹の川酒造がウイスキー製造に着手したのは1960年代にさかのぼる。当時、日本各地でウイスキーブームが到来する中、同社もポットスチルを導入し、自社でモルト原酒の蒸溜を行っていた。しかしその後、国内ウイスキー市場の低迷とともに蒸溜活動は一時停止。長らくスコットランドやカナダからの輸入原酒をブレンドする形でウイスキー事業を継続していた。
転機が訪れたのは2010年代の国産ウイスキー再評価の波である。ジャパニーズウイスキーが世界的な注目を集める中、笹の川酒造は2016年に安積蒸溜所を本格稼働させ、シングルモルトウイスキーの自社製造を再開した。スコットランドのフォーサイス社製のポットスチルを導入し、伝統的な蒸溜技術と最新設備を組み合わせた製造体制を構築。2018年には初のオフィシャルシングルモルト「ASAKA THE FIRST」をリリースし、国内外のウイスキーファンから高い評価を得た。その後も年次ごとにリリースを重ね、2020年代には「Peated」や「Sherry Cask」など多彩なラインナップを展開。ウイスキー専門誌やコンペティションでの受賞も相次ぎ、東北を代表するクラフト蒸溜所として確固たる地位を築きつつある。
オーナーのこだわり
笹の川酒造の現代表・山口哲蔵氏をはじめとする経営陣は、「土地の個性を瓶に閉じ込める」という哲学のもと、安積蒸溜所の運営に取り組んでいる。その最大のこだわりは、福島・郡山という土地のテロワールを最大限に活かすことだ。仕込み水・気候・熟成環境のすべてにおいてローカリティを重視し、輸入原酒に頼らない純粋な自社蒸溜・自社熟成のシングルモルトを追求している。
製造面では、スコットランドの伝統的な製法を基本としながらも、日本の木であるミズナラ樽での熟成実験にも積極的に取り組んでいる。ミズナラが持つ独特のオリエンタルスパイスやサンダルウッドのニュアンスを加えることで、ジャパニーズモルト固有の表情を追求する。また、同社が持つ日本酒・焼酎製造の長い歴史から培われた発酵技術や品質管理のノウハウをウイスキー造りにも応用し、小規模ながら丁寧かつ精密な製造を実践している。「量よりも質」を貫く姿勢が、安積モルトの高い完成度を支えている。
テイスト プロファイル
| フレーバー軸 | スコア(1〜10) |
|---|---|
| スモーキー | 4 |
| フルーティー | 8 |
| スパイシー | 6 |
| 甘み | 7 |
| ビター | 5 |
安積蒸溜所のシングルモルトは、全体的にエレガントでフルーティーな印象が強い。洋梨やリンゴを思わせる爽やかな果実香が基調となり、シェリー樽熟成のラインでは干しブドウやオレンジピールのような濃密な甘みが加わる。スパイシーさはほどよく、ジンジャーやシナモンのアクセントが余韻に顔を出す。ピーテッドラインでは燻煙感が加わるが、強烈ではなくあくまで穏やか。東北の冷涼な熟成環境がもたらすクリーンでシャープな口当たりが全ラインに共通する特徴だ。
オフィシャルボトルラインナップ
| 銘柄名 | 参考価格 | 度数 | 熟成樽 | テイスティングノート |
|---|---|---|---|---|
| ASAKA THE FIRST 楽天で探す |
約15,000円 | 55% | バーボン樽+シェリー樽 | 洋梨・青リンゴ・バニラ・ほのかなオーク。軽やかでフレッシュな第一印象。 |
| ASAKA Peated 楽天で探す |
約18,000円 | 55% | バーボン樽 | 穏やかなスモーク・レモン・グリーンアップル・微かな塩気。バランスの取れたピーテッドスタイル。 |
| ASAKA Sherry Cask 楽天で探す |
約20,000円 | 57% | オロロソシェリー樽 | 干しプラム・チョコレート・シナモン・ナッツ。リッチでふくよかな甘みが長い余韻を生む。 |
| ASAKA Mizunara Finish 楽天で探す |
約25,000円 | 55% | バーボン樽+ミズナラ樽フィニッシュ | サンダルウッド・白檀・蜂蜜・ドライフルーツ。和の情緒あふれる複雑なフレーバー。 |
| ASAKA Single Cask 楽天で探す |
約30,000円〜 | カスクストレングス(樽により変動) | 各種(ボトルにより異なる) | 樽ごとに個性が異なる限定品。原酒そのままの力強い味わいとテロワールを体感できる。 |
ボトラーズ代表銘柄(現行品)
| 銘柄名 | 参考価格 | 度数 | 熟成樽 | コンセプト | テイスティングノート |
|---|---|---|---|---|---|
| Asaka 5 Year Old(The Whisky Exchange Exclusive) 楽天で探す |
約35,000円 | 54.3% | バーボン樽 | 英国の著名ボトラーが日本の新興蒸溜所の個性をピュアに表現した1本。 | 青リンゴ・ライムゼスト・バニラビーンズ・ほのかなオーク。クリーンで繊細な仕上がり。 |
| Asaka 2016 Single Cask(Shinanoya Selection) 楽天で探す |
約40,000円 | 58.0% | リフィルホグスヘッド | 日本の独立系酒販店が厳選した初期ヴィンテージ。蒸溜所の原点的な味わいを記録した希少品。 | 白桃・洋梨・蜂蜜・微かなナッツ。果実主体のフレッシュで透明感あるフレーバー。 |
| Asaka Peated Single Cask(Spirits of France Selection) 楽天で探す |
約45,000円 | 56.5% | バーボンバレル | フランスのボトラーが安積ピーテッド原酒の魅力に着目。欧州市場向けにリリースされた限定品。 | 穏やかなスモーク・グリーンハーブ・洋梨・レモンカード。軽快かつ複雑な欧州好みの1本。 |