蒸溜所の始まり
ノックドゥー蒸溜所は、スコットランド北東部ハイランド地方のアバディーンシャー、バンフシャーとの境界近くに位置する小さな村、ノックドゥーに佇む蒸溜所です。その名はゲール語で「黒い丘」を意味し、蒸溜所の背後にそびえるノックドゥー・ヒルに由来しています。
設立は1893年。スコッチウイスキー産業が急速に拡大していたヴィクトリア朝後期、ディスティラーズ・カンパニー・リミテッド(DCL)の前身にあたるグループがこの地に目をつけました。その最大の理由は水源です。近くのメドウ・スプリングから湧き出る清冽な湧き水は、ウイスキー製造に理想的な軟水として高く評価されました。また周辺の大麦農家との距離的な近さも、原料調達の観点から好立地でした。自然豊かな丘陵地帯に建設されたこの蒸溜所は、創業当初から品質重視の姿勢を貫き、シングルモルトの銘醸地として静かにその名を育ててきました。
歴史・沿革
ノックドゥー蒸溜所は1893年にDCLの傘下企業によって建設・操業を開始しました。20世紀初頭のスコッチウイスキー産業は好況と不況を繰り返しており、ノックドゥーも例外ではなく、第一次・第二次世界大戦の影響や禁酒法時代のアメリカ市場縮小により、幾度かの一時閉鎖を余儀なくされました。
戦後はDCL体制のもとで安定した生産を続けましたが、1980年代のウイスキー不況(ウイスキーレイク)の波を受け、1983年に操業停止に追い込まれます。この時代、スコットランド各地の蒸溜所が相次いで閉鎖・廃業に追い込まれましたが、ノックドゥーは幸運にも生き残りの機会を得ました。
1988年、インバーハウス・ディスティラーズがDCLの再編後継であるUD(ユナイテッド・ディスティラーズ)からノックドゥーを取得し、翌1989年に操業を再開。インバーハウスはこのとき「アンノック(anCnoc)」というシングルモルトブランドを立ち上げ、蒸溜所名と製品ブランドを分けるという当時としては先進的な戦略を採用しました。これにより、同名の別蒸溜所(ノックドゥー村とは別のノック蒸溜所)との混同を避けつつ、独自のブランドアイデンティティを確立することに成功しました。2001年にはインバーハウス自体がタイの大手飲料グループ、インターベブ(後のThaiBev傘下)に買収され、現在に至ります。
オーナーのこだわり
現在の所有者であるインバーハウス・ディスティラーズは、「品質・個性・誠実さ」を経営理念の柱に掲げ、ノックドゥーの伝統的な製法を頑なに守り続けています。特筆すべきは、ウォームタブ(旧式の虫樽式冷却器)を今なお使用している点です。現代の蒸溜所の多くがコスト効率に優れたシェル&チューブ式冷却器に切り替えるなか、ノックドゥーはあえて旧式設備を維持することで、より重厚でオイリーなニューメイクスピリッツを生み出しています。
また熟成環境にも強いこだわりを持ち、バーボン樽を主軸としながらもシェリー樽やポートワイン樽を効果的に組み合わせた多彩なラインナップを展開。マスターブレンダーをはじめとする生産チームは、ハイランドらしいフルーティーでフローラルなキャラクターを最大限に引き出すことを最優先とし、過剰なピートや過熟成に頼らない「素直なウイスキー」の追求を続けています。
テイスト プロファイル
| フレーバー軸 | スコア(1〜10) |
|---|---|
| スモーキー | 2 |
| フルーティー | 8 |
| スパイシー | 5 |
| 甘み | 7 |
| ビター | 4 |
ノックドゥー(アンノック)の最大の特徴は、ノンピートモルトを使用した明るくフルーティーなキャラクターにあります。バニラや青りんご、白桃を想わせるフレッシュな果実香が前面に出て、そこにハチミツやシトラスの甘みが寄り添います。スモーキーさはほぼ感じられず、ハイランドモルトらしい穏やかな草花のニュアンスが余韻に続く、バランスの取れたエレガントなプロファイルが魅力です。
オフィシャルボトルラインナップ
| 銘柄名 | 参考価格 | 度数 | 熟成樽 | テイスティングノート |
|---|---|---|---|---|
| anCnoc 12年 | 約4,500円 | 40% | バーボン樽 | バニラ・青りんご・ハチミツ・軽やかなシトラス。飲みやすく入門に最適。 |
| anCnoc 18年 | 約10,000円 | 46% | バーボン樽+シェリー樽 | 熟した洋梨・ドライフルーツ・スパイス。余韻に温かみあるオークが続く。 |
| anCnoc 24年 | 約25,000円 | 46% | バーボン樽 | トロピカルフルーツ・白檀・バニラクリーム。長熟由来のまろやかな甘み。 |
| anCnoc Peatheart | 約7,000円 | 46% | バーボン樽 | ピートスモーク・柑橘・バニラが複雑に絡む。ノックドゥーの異色作。 |
| anCnoc Cutter | 約6,500円 | 46% | バーボン樽 | 中程度のピート・グリーンフルーツ・レモンピール。スモーキーとフルーティーの均衡。 |
ボトラーズ代表銘柄(現行品)
| 銘柄名 | 参考価格 | 度数 | 熟成樽 | コンセプト | テイスティングノート |
|---|---|---|---|---|---|
| Gordon & MacPhail Knockdhu 2013 | 約12,000円 | 46% | ファーストフィル・バーボン樽 | 産地の個性を忠実に表現するGM伝統のスタイル | フレッシュな洋梨・バニラビーン・軽いジンジャー。クリーンで上品な仕上がり。 |
| Signatory Vintage Knockdhu 11年 | 約9,500円 | 43% | リフィル・ホグスヘッド | シングルカスクの純粋な個性を低加水で表現 | 青りんご・白い花・麦芽の甘み。軽やかでアペリティフとして秀逸。 |
| Hunter Laing Old Malt Cask Knockdhu 15年 | 約15,000円 | 50% | リフィル・バーボン樽 | カスクストレングス近辺でモルトの真価を問う | 蜂蜜レモン・トースト・微かなナッツ。加水すると果実が一層開花する。 |